絵描き忠田愛の旅の記録。出会ったものたち。感じたこと。旅行記をゆっくり更新中。
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月の庭

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霧多布(アイヌ語のキータプ〈茅を刈るところの意〉に漢字をあてている)はその字の通り、霧の町だった。
あたりが暗くなりはじめた頃、白いベールのような霧の布が海からゆっくりと流れ込み、その帯は瞬く間に町を包み込んだ。
雨は次第に勢いを増し、やがて稲光と共に雷鳴が闇を揺らす。
宿の人が停電に備えて懐中電灯を探している。
屋根を打つ雨音がすぐそばに聴こえる。
太平洋と湿原の間にぽつんと佇む小さな宿は、嵐のなかを航海する一艘の舟のようでとても素敵だった。
布団のなかに潜って、浴びるような雨を聴いていると、いつの間にか深い眠りに落ちた。

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翌日は夜の嵐が嘘のような晴れ。
霧多布湿原が青空の下できらきらと光っている。今日はここを歩くのだ。

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湿原のなかにまっすぐと伸びる道は、春国岱のそれとよく似ていた。果てしなく広い風景のなかに伸びてゆく道の前に立つ度にまっさらな気持ちになる。

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湿原はすっかり秋だった。(この日は9月3日)
ススキ、サワギキョウ、ノコギリソウ、エゾフウロ、チシマアザミ、ミゾソバにエゾリンドウ。
お月さまの庭のように透きとおった野を 風がゆっくりと渡っていく。
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ツリガネニンジン

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木道終点の展望所に出ると嬉しい出会いが待っていた。
タンチョウのつがいだ。渡ってくるにはまだ早すぎるので、居着きのタンチョウだと思う。
細長い首に赤い帽子、白い羽根に墨をつけたような黒が潔くて、優美だ。
時々、水辺に嘴を差しこんで小魚らしきものを食んでいる。
やわらかな動作で首をもたげて、時々もう一羽の様子を振り返る。
湿原には、タンチョウの刻む時間がゆったりと流れていた。


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by ai-viaggio | 2015-10-12 22:18 | '15北海道

森と海のあいだ

根室、春国岱。
滝のようにフロントガラスをたたいていた雨が、春国岱に近づく頃にはぴたりとやんでいた。
雨上がりのすがすがしい空気が海風に乗って流れ込んでくる。
ぶあつい雲の隙間からちいさな青空。
雲の彼方まで続きそうな一本の木道をゆっくりと歩く。


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遠くで鹿の鳴き声が聴こえる。
一匹が甲高く無くと、もう一匹がちいさくこたえる。
目を細めて対岸を追っていくと、エゾシカの親子がゆっくりと岸辺を歩いていくのが見えた。

木道が終わり、いつしか足元は砂地になっていた。右手に海、左手に立ち枯れの樹々とその向こうに広がる森、手前に干潟を見ながら風景のなかをただただ歩く。砂州の間を流れる水は悠久の時を刻むようだった。


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砂州が細く細く、海に消えていくその手前の草原に、それはしずかに横たわっていた。

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鯨の骨だ。もう頭骨も肋骨もない。残っているのは背骨だけなのに、それは風景のなかで圧倒的な存在感を放っていた。

骨にふれてみる。持ち上げようとすると石のように重くて、表面は流木のように堅くてやさしい。
背骨のひとつひとつは飛行機のプロペラにも似て、なんてきれいなのだろう。
小さい頃から鯨や象は大好きな生き物だった。
しかし、私は鯨のことをほんとうに知っていたといえるだろうか。
鯨の背骨のまわりにゆっくりと肉付けしてみる。このあたりにお腹があって、大きな尾びれがあって・・
ああ、なんというおおきな生き物なんだろう。
おおらかで、豊かであたたかく、重量感があって、こんなにも堂々と生きて死んでゆくなんて。
この鯨はどんな海を渡り、どんな仲間と出逢い、どんな一生を送っただろう。

この一頭が生きてきた海の時間を胸に描き、
草原の土へゆっくり還っていく後の未来を思ったそのとき、
私のなかで鯨という生き物が確かな輪郭をもって、強く迫ってきた。

こんな生き物が共に生きているなんて。

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見返れば、かつて鯨の暮らした青い海がしずかに広がっていた。




春国岱に行く前、Nさんが教えてくれた根室の古道具屋さんを訪れた。
そのお店には古道具や本と共に、大きな鯨の頭骨が飾られていて、店主の方とたまたま鯨の話をしていた。
別れ際、これから春国岱を歩くんですよ、と何気なくお話すると
店主の方が、もしかしたら砂州の先に以前打ち上げられた骨がまだ残っているかもしれませんよと教えてくださった。
もう草に埋もれているかもしれないし、目印がないので場所もはっきりとはわからなかったけれど、
そのお話がなかったらここまで歩かず引き返していたかもしれない。
友だちが繋いでくれたご縁に感謝しています。
ありがとう。



春国岱(しゅんくにたい)は、オホーツク海と風蓮湖の間に横たわる細長い砂州です。3千年~千5百年のときをかけ堆積した3列の砂丘には、海岸、草原、湿原、森林、干潟など多様な環境が存在します。春国岱・風蓮湖は、これまでに約310種の野鳥が記録され野鳥の聖域と言われています。根室を代表する自然の宝庫です。

春国岱は奇跡の島と呼ばれています。それには3つの理由があります。一つは、海流によって知床のほうから運ばれてきた砂が、数千年という長い年月をかけて風蓮湖をしきるように堆積し、現在のような地形ができたこと。そしてもう一つは、砂でできた島に草木が生え、海岸とは思えないような幻想的な風景を作り上げたこと。そして最後は、市街地からほど近い所にありながら、ほとんど手付かずの自然が残されていることです。
(春国岱ホームページより)


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by ai-viaggio | 2015-10-04 23:52 | '15北海道