摩周湖斜里線を神の子池から清里方面へ走ると、さくらの滝という小さな看板。
矢印の方向へ曲がり農道をどんどん奥へ進んでいくと、滝音が近くなってくる。
ひらけた空き地に車を停め、樹々の間を降りると目の前の風景に息を呑んだ。
サクラマスだ。
自分の体長のおそらく7倍以上の高さの滝に向かって必死にジャンプを繰り返している。5秒に一回ほど黒い(時に赤い)姿態が宙に舞う、その度に思わず拳をにぎりしめる。
あるものは瀑布にはじき飛ばされ、あるものは滝壺に巻かれて飛ぶことができない。
それでも、彼らは決してあきらめることなく、ただただ滝に向かって身体を躍らせつづける。
川で生まれ育ったヤマべたちは海へ出てサクラマスとなり、毎年この川には産卵のために約3000匹のサクラマスが遡上するという。滝登りに成功して、より上流で産卵できるサクラマスは全体の1割にも満たない。それでも、彼らは身体がボロボロになるまで滝登りをやめない。
あきらめるあきらめないではなく、結果がどうこうではない。それは、すこしでも上流で産卵するという生命の意志であり、種の思惑だ。
サクラマスがサクラマスを生きる。
上流へ進むことを決して疑わない、
ただ一直線の生命の圧倒的な強さがそこにはあった。